生活の中やビジネス現場において「ちょっと」「なるべく」「いい感じに」といった、曖昧な表現が日常的に使われています。
ではなぜ「曖昧な言葉」は危険なのか。
その曖昧な言葉によって「伝えたつもり」「やったつもり」といった誤解や認識のズレが生じてしまい、結果的にミスややり直しが発生し非効率へとつながってしまうことになるためです。
この記事では、曖昧な言葉がもたらすコミュニケーションエラーの実例と、明確な伝え方のコツを紹介します。
曖昧言葉とは
曖昧言葉とは「早めに」「できるだけ」「しっかり」「多めに」「いい感じで」「後で」「適当に」などといった「主語」「目的」「基準」がハッキリしない言葉を定義します。
曖昧言葉が使われる理由には「断定を避ける日本の文化的な背景」「上司、部下間の立場の差」「言葉にする前の思考不足」などがあげられます。
また、日本には言葉にしない「言葉にしなくても察する文化」が存在することも曖昧言葉が頻繁に使用される要因ではないでしょうか。
日本は世界のどの国よりも「空気を読む」「察する」という人間関係の調和を重んじる傾向があり、相手を否定したり、強く主張することを避ける表現が多く使用されています。
ほかにも、日本語の文法構造は少し特殊で、主語や目的語を省略しても意味が通じてしまう特徴があるため、曖昧な言葉でも違和感が少なくやりとりを可能にしてしまっているのではないでしょうか。
曖昧言葉がビジネス現場に及ぼす失敗例
ビジネス現場では曖昧言葉が頻繁に使われていることがあり、お互いの認識や感覚の違いにより問題が生まれてしまいます。
そんなビジネス現場で起こり得る失敗例と対応策を紹介します。
「早めに対応しておいて」
上司「あの資料修正、早めに対応しておいてね。」
部下「承知しました。」
上司の中での「早め」とは「今日中に」、部下の中での「早め」は「明日の午前中までに」。
結果、対応が遅れることで部下は上司から注意を受け、慌てて修正作業に入ることになりました。
原因は「早め」という曖昧な基準ではなく、具体的な時間(期限)の指定を伝えておけば防ぐことができた事案です。
ちなみに、「今日中に」「午前中に」というのも曖昧言葉ともなり、具体的な時間「今日の17時まで」「明日の朝10時まで」と伝えることがお互いの認識のズレを生む可能性を下げることにつながります。
「できるだけコストを抑えて」
上司「この製品は、できるだけコストを抑えて進めてね。」
部下「承知しました。最低限の素材に絞って進めていきます。」
製品完成後、上司のチェックにて
上司「いや、もっと品質を重視しないとダメだろ!」
結果、やり直しが発生してしまいました。
原因は「できるだけ」という曖昧な言葉の部分です。
上司の中では「予算の90%程度」を想定していましたが、部下は「必要最低限で」と解釈したことによる認識のズレが起こした事案になります。
できるだけ、と曖昧になるのではなく数字で表せる場合は「通常予算の8割まで」「10万以内で」など、どこまで削っていいのか線引きを具体的にすることが必要です。
「いい感じで仕上げて」
上司「この広告、もう少しいい感じに仕上げておいて。」
部下「はい。では、もう少し柔らかい印象でまとめておきます。(いい感じってどんな感じなんだ・・・。)」
完成後の上司のチェックにて
上司「いやいや、もっとインパクトが欲しい!」
結果、やり直しが発生しました。
原因は「いい感じに」という曖昧な基準となる指示で、感覚的な表現では「具体的なゴールイメージ」を共有することが難しくなります。
「どんな印象を与えたいのか」「誰に見せるものなのか」など、目的を具体化し言語化して伝える事が大切です。
「また後で相談します」
会議中のリーダー「この件は後で相談することにします。」
その後、別件対応などに追われてしまい期限の前日になり、慌てて再度会議を開くことになるが誰も「その事」について考えていないため、会議は難航してしまいました。
原因は「後で」と曖昧な時間指定の無い保留表現が使われている点です。
「いつ」「誰と」相談するのかを明確にしておけば、関係者はその事について考えることも、予定を組んでおくこともできます。
曖昧言葉は日本的な配慮表現として自然に使われることが多い言葉ですが「トラブルの火種」でもあります。
特に、業務指示や納期、品質管理といった場面ではこの曖昧言葉によって致命的な誤解を生む可能性がるため、注意が必要です。
曖昧言葉を明確にする方法
曖昧言葉を使用すると、伝えた人と伝えられた人の中で認識の違いが必ずと言っていいほど発生します。
ここでは、そんな認識の違いが生まれないための5つの方法を紹介します。
【1】「数字」と「期限」で具体化する
曖昧言葉のほとんどは「数量」「時間」「範囲」といった具体的な数字が不明確になっています。
そのため、これらを明確な数字で伝えるだけで認識のズレを防ぐことが可能です。
例1)早めに対応して → 今日の17時までに対応して
例2)多めに発注して → 通常の1.5倍程度、300個発注して
例3)少し修正しておいて → 2ページ目のグラフを差し替えて
もし、自分に対して曖昧言葉を言われた側の場合は「具体的にはいつまでに、どれくらい必要ですか?」と確認する勇気を持つことが大切です。
【2】「目的」を共有し、曖昧さを無くす
曖昧な表現の背景には「何のためにやるのか」が共有されていないケースが多く、同じ作成や修正作業であっても「目的」が違えば方向性も変わってきてしまいます。
そのため、「作成する目的」「誰に見せるのか」といった目的や背景を共有することで、伝えた相手は自分の判断で適切に動くことも相談することもしやすくなります。
例1)もう少し見やすくして → 会議で上司が3分で要点を理解できるようにして
例2)もう少し簡単にまとめて → 初心者が一読で理解できるように一文で説明して
【3】「確認の言葉」で共通認識を固定する
伝えられた内容に対して「はい」「承知しました」だけで終わってしまうと、実はお互いのイメージがズレていることは往々にしてあります。
これを防ぐために「相手に自分の言葉で説明する形」で復唱し、要約による確認を加えるだけで誤解やイメージのズレを減らすことが可能です。
また、伝える力が上がることで相手からは「この人には言いたいことがしっかりと伝わる」いといった信頼性も上がります。
例)この資料、早めに共有しておいて → 承知しました。今日の16時までに社内チャットにて共有しておきます
【4】曖昧言葉を「トリガー」として意識する
会話の中に「早めに」「しっかりと」「適当に」「なるべく」といった言葉が出たら「自分と相手の間にズレがあるかも」と曖昧さに気付ける感度を高めることが大切です。
【5】書き言葉で可視化する
口頭指示は曖昧になりやすい傾向にあるため、チャットやメールといった書面による再確認をする習慣をつけることをおすすめします。
「書く=考えが明確になる」というふうに、書くことで自然と内容が具体化され、お互いの認識が共有されます。
つまり、曖昧な言葉には「文書化することが最強の明確化手段」になります。
まとめ
この記事では、曖昧言葉もたらすコミュニケーションエラーの実例と、明確な伝え方のコツを紹介しました。
曖昧な言葉を無くすことは難しく、そちらにばかり意識していては会話の内容が入ってこないこともあり、それでは本末転倒です。
また、「曖昧な言葉=悪」と決めつける必要もありません。
大切なのは「曖昧さを放置せず、明確化する習慣をつける」ことです。
「数字」「目的」この2つを会話の中で意識することでコミュニケーションエラーを格段に防ぐことができ、仕事の生産性も上がります。
言葉を丁寧に伝える事。
それは、相手の時間を尊重することにもつながり、明確な伝え方は相手との信頼関係を築く上で大切な要素となります。
「伝える」と「伝えた」は別物です。
今日から曖昧な言葉を一つずつ具体化する習慣作りをしてみてはいかがでしょうか。
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